茶運び人形図解

  1. 茶運び人形の動作


    1. 茶運び人形のルーツ

       茶運び人形は寛政8年(1796)年に発行された「機巧図彙」の上巻に詳細な作り方が紹介されています。ここでは、まず、「機巧図彙」の内容を簡単に紹介します(雰囲気を味わってください)。

    2. 茶運び人形の所作

       主人は茶運び人形を客の方に人形を向け、お茶をおきます。人形は前進し、お客の前で頭を下げます。お客はお茶を受け取ると人形は停止し、客が飲み終わるのを待ちます。客が茶碗を戻すとくるりと向きを変え、元の位置に戻ります。


    3. 動作原理

       人形は「ゼンマイ」仕掛けで動きます。茶碗を置くことで、ストッパーが外れ人形は動作します。茶碗がないとストーパーがかかり、内部の回転が停止します。人形内部に大きな歯車があり、ある程度回転すると、頭を下げる動作をします。
      足も前後に移動していますが、動作するのみで写真の回転で移動します。車輪は後方に二つ、前方に一つあります。前方の車を魁(さきがけ)と呼び、この魁をレバーで回転すると、人形が回転を開始します。頭を下げた後、レバーが働き、人形は回転を始めます。
       

       ある程度回転すると、レバーが戻り回転が終わります。回転時間を調節すると、180度回転して、元の位置に戻ることができます。客が茶碗を取ると一度休止しますが、とらない場合でもUターンして戻ります。

    4. 調速機構

       茶運び人形は、ぜんまい(元は鯨の「くし歯」を利用していました)仕掛けで動きます。調速機構がないと、最初は早く、おわりは遅い動作になります。そこで、振り子の「等時性」を利用し、振り子の動作をする「天符(テンプ)」の上下の「爪」で行司輪と呼ぶ回転盤をひっかけて一時停止させ、振り子の速度で行司輪の回転を制御します。(機械仕掛けの時計もこの機構を利用し針を進めています)。ただし、この部分の図は「爪」の部分が明確でなく、「時計」など他の「機巧図」が必要だと思います。

      また、茶碗の上げ下げで上からの棒を上下し、行司輪の回転を止めることで人形の動作を開始/停止しています。

    5. 制御機構

       頭を下げたり、回転を始める/停止する、には、行司輪と同時に回転する「一の輪」の左に仕掛けられた「行戻(ぎょうじ)」によります。「行戻」は西洋風ではカムのことで、「行戻」の形により、魁車(ゼンリン)のレバーを押したり、押すのをやめることができます。

       

       この、「行戻」では押すことは可能ですが、戻すことはできません。戻すには、ばね板(これも鯨の歯を利用)を利用して戻します。
       頭を下げるのは「一の輪」の右の「行戻」を使用します。これは、魁車の「行戻」より早めに押して頭を下げ、戻します。「行戻」の形状で、頭を下げる、回転開始、頭を戻す、回転終了、などの動作を順に行います。

    6. 回転制御

       下図が、魁車(前輪)の構造です。右から、板バネ、レバー、魁車(前輪)です。レバーを「行戻」が抑えることで、魁車(前輪)が進行方向に対し斜めになり、”ハンドルをきる”ことで回転します。「行戻」が戻ると板バネで、魁車(前輪)が進行方向になり直進します。



    7. 動力

       動力にはセミ鯨の歯(ヒゲ)を「ぜんまい」利用していました(現在は「捕獲禁止」のため入手困難です)。ハンドルで「ぜんまい」を巻き上げます。このとき、逆転を止めるための機構が必要で、下のような「留輪」と「止めくぎ」が必要です。これは、西洋風ではラチェット機構です。巻き上げ時の音はこの「止めくぎ」が「留輪」にあたる音です。

       

    8. 復元

       下は、「からくり人形師九代目玉屋庄兵衛」氏が復元された本物の茶汲み人形です。

      http://www.geocities.jp/aichiguide/guide07/karakuri.html

  2. 「大人の科学」版茶汲み人形


    1. 「茶汲み人形」

      「学研」さんの「からくりシリーズ」に 「大江戸からくり人形」の名前で、茶汲み人形キットが販売されています(豊田高専の校長先生、からくり博士の末松先生が監修されています)。
      https://shop.gakken.co.jp/shop/order/k_ok/goodsdisp.asp?code=1575021000 より
       
      このキットの内容をご紹介します。動力はぜんまい、歯車、バネはプラ製で、衣装もついています。



    2. 全体構造と動力

       下図左は背面、右は前面の画像です。背面側で、右の円盤部分に動力のぜんまい、その横の白い大きな歯車は下部で小さな歯車で車輪に接続しています。その横の中央部の茶色の円盤に、カムが接続しています。左側は前輪の右側には首を動かすカムがあります。左の金属の針金が、茶椀を載せる台と連結し、動力の停止、作動を制御します。

          背面(左下に調速機構)                  前面(中央下に回転機構)


    3. 調速装置

      下図は(少しボケてますが)調速部分です。右下に突き出た振り子が回転する毎に、左のギザギザの歯車が一つ進みます。反対側にも爪があり、交互に一時停止をかけます。


    4. 方向制御用カム

       下図、白い大きな歯車の横に、茶色の歯車の一部が他の部分より突き出ていますが、この部分が前輪を押すカムになります。
       

       下図は前輪の駆動部分で、金属製のレバーをカムが押して前輪を回転します。前輪を戻すには、プラ製の板バネです。


      下は、前輪部のムービーです。再生ボタンを押してください。



    5. 頭の制御

       下図の中央部の前方に突き出た白い板バネが、首を戻します。板バネの横に下部から突き出たプラの棒が、カムに連結し首を下に傾けます。
       

  3. 調整箇所と保存


    1. 末松先生のお話

       以下は異業種交流会「アルキメデス」主催の「からくりを作る」で豊田高専の末松先生の講義からの引用です。

    2. 調速器が動作しない

       調速器の振り子が歯車にあたり、途中で回転がとまる場合があります。テンプの長さを調整してください。


    3. 回転までの時間

       カムのついた歯車は手動で半時計方向に回転することができます(このとき、逆転防止のラチェっトの音がします)。これを回転させ、「前輪」が戻った直後(あるいはネジを巻き上げるとこの位置にリセットできます)でスタートさせれば、頭を下げるまで最大長(約90cm)移動します。1回カチッと回転させてからスタートさせると76cm程度、2回回転後移動させると62cm程度になります。

    4. 回転量

       カムについた黒いねじを緩めると、カムの突き出た部分の長さを調整することができます。カムの長さを長くすると、前輪が斜めになる時間が長くなり、したがって回転量が増えます。回転不足、過大の場合、ここで、調整できます。


    5. 前進方向

       静止時に前輪が傾いていると、まっすぐ進みません。この傾きは、人形の底板にある穴(下図中央部)から、ねじを回すことで、調整できます。


    6. 盆の傾き

       茶椀を置いたときのお盆の傾きを右肩の穴の下にあるネジで調整できます。

    7. 保存の注意

       長く使用しない場合、まず、「ぜんまい」を完全に戻しておきます。また、前輪と首を自然な状態に戻しておきます。前輪や首が曲がった状態では戻しの「板バネ」が曲がった状態です。このまま放置すると、板バネの復元力が弱まります。この板バネは、糸をはずしてしばらく(数日)緩めておけば、ある程度回復するようです。