演算増幅器(オペアンプ)
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演算増幅器
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理想差動増幅器
演算増幅器(oparational Amplifier:略してオペアンプ)は、理想的な増幅器を求めて作成された差動増幅器です。理想とは
増幅率は無限
周波数帯域も無限
入力インピーダンス∞(無限大)
出力インピーダンスは0
遅延0
温度依存性0
内部で発生する雑音0
等です。
このうち、増幅率、入力インピーダンスについてはかなり実用的な素子が、提供されています。
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用途
アナログ信号の増幅、波形変換、発振、などに利用する基本的な素子です。トランジスタを組み合わせたアナログ集積素子で、トランジスタ単体で利用するより簡単に利用できます。
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演算増幅器
演算増幅器の下図の記号で書きます。
入力の - と + の端子は上下を逆に書く場合もあります。動作は、二つの入力端子(V+,V-)の電圧差を AV 倍して出力します。理想増幅器の場合、AV は無限ですが、実際は 1万くらいです。
Vo=(V+-V-)AV ・・(1)
このままでは、増幅度が高すぎますので出力を入力に戻して(フィードバックする)利得を制御します。このフィードバックにより、回路の動作も安定します。
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理想と実際
入力抵抗はかなり理想に近いものがあります(T(テラ)Ω)。
利得は100db程度はとれます。dbは対数指標で 20log Av です。10000 倍で80dbになります。
周波数帯域はかなり制限されます。
帯域幅B:は増幅率(G:db単位)との積で制限されます。GB積で 3M 程度です。
温度依存性もかなりあります(20μV/C)。
電源電圧は ±5〜±15V の範囲です。出力電圧は、電源電圧で制限されます。多くの物は、電源電圧より数V低くなります。
最大出力電流は大きくありません(負荷1KΩ以上)。
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スルーレイト
opアンプの応答速度を示す尺度としてスルーレイトがあります。これは、opアンプが1μ秒の間に変化できる電圧(V)で表記します。
汎用型のopアンプでは、数十ですが、高速型では1000以上のスルーレートになります。
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増幅器として利用
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非反転型増幅回路
この形式がよく利用されます。出力を抵抗を通して、V- 端子に戻します。 V+ に入力信号を接続します。
理想opアンプは、V+ とV-が同じ電圧になるように動作します。したがって、Vo を抵抗R1とR2に分割した電圧が Vi となります。
Vi = (R1/(R1+R2))・Vo
したがって、
Vo=Vi (1+(R1/R2))
となります。R1とR2を1Kオームから100kオームくらいの範囲で選択すれば、増幅率が設定できます(ただし、増幅率は1以下にはできません)。
入力抵抗は、オペアンプの入力抵抗となりますから、充分高く設定できます。このままでは、入力抵抗が高くなりすぎ「浮いた」状態になりますから、+ 端子を高い抵抗(1M)を通して接地する場合もあります。
この回路の問題点は、+、- の入力端子の電圧が入力電圧とともに変動することです。オペアンプは、理想的には差電圧のみを増幅するのですが、回路のバランスを崩れると同相電圧に対する影響がでます。また、入力電圧の限界があり、電源電圧に近づくと正常に動作できなくなります。後述の反転型の場合、入力端子電圧はほぼ0ですから、この問題はありません。
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バッファ回路(ボルテージフォロア)
この回路で、R2=無限大、R1=0 とすると、Vo=Vi となります。この回路は、バッファ回路(ボルテージフォロア)回路とよび、入力回路のインピーダンス変換や、回路間の分離(アイソレーション)に利用できます。
出力端子側の電圧が何らかの原因で変化しようとしても、opアンプは、出力電圧=入力電圧 の条件を守るよう「がんばる」ため、出力電圧は(限度はありますが)入力が変化しない限り一定値に保たれます。センサーなどのアナログ信号をそのままAD変換しようとすると、AD変換の過程で、アナログ信号の電流が変動し電圧が変化してしまいます。センサーとAD変換の間にこのバッファ回路を挿入すると、変換に伴う変動(ノイズ)を抑えることができます。
アナログ信号は、必ずこのバッファ回路で受けるようにすると多くのトラブルを防止することができます。
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反転増幅器
下図は反転増幅器と呼ばれる回路です。理想増幅器とすると、入力インピーダンスは無限大ですから - 端子には電流は流れません。したがって、- 端子の電圧 V- は Vo-Vi を R1+R2 で分圧した値ですから
V-=(Vo-Vi)R1/(R1+R2)+Vi ・・(2)
となります。増幅度も無限大ですから、(V+-V-)=0 で、V+ =0 ですから V- = 0 でなくてはいけません。したがって、
(Vo-Vi)R1/(R1+R2)+Vi =0
これから、
Vo=-(R1/R2)Vi
となります。R1と R2 の比で、増幅率が設定できます。符号が反転しますから、反転型増幅器と呼ばれます。
この回路の問題点は入力抵抗です。 - 端子は+端子と同じレベルですから、グランドと同じになります。したがって入力抵抗はR2 となります。R2 を高くすると、増幅率を高くすることができません。抵抗の値は、抵抗の発生する雑音などを考慮すると、1MΩが限界です。
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反転増幅器の変形
入力抵抗を高めるには、反転増幅器を変形し、R1を分割して下図の構成にします。
この回路の出力は
VO=-Vi((R2R3)/(R1R4)+(R2+R3)/R1))
となります。R1を100KにしてもR4を1K程度にすれば、増幅率を稼ぐことができます。
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差動増幅回路
下図の回路で、R1=R3、R2=R4 とすると、
VO=(R2/R1)(VIN2-VIN1)
となります。指定した増幅度での、差動増幅回路になります。この関係は、オペアンプの各入力端子の電圧を v-、v+、出力電圧をvo とおくと、
v+ = (R4/(R3 + R4)) * Vin1
v- = (R1/(R1 + R2))*( vo - vin2) + vin2
となります。v+ = v- から導かれます。
この回路構成では、+端子側の入力抵抗はR4+R3 となり、-端子の入力抵抗は +端子の電圧により変動します。したがって、入力端子の電圧が入力抵抗で変動する場合、ボルテージフォロア回路を介して接続する必要があります。
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OPアンプの特性
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OPアンプのオフセットとドリフト
オフセットは、opアンプの入力が0でみお出力が0にならない現象をいいます。オフセットを調整するには、反転型増幅器の場合、+の端子に可変抵抗で電圧を加えて補正します。オフセットの補正用専用端子があるopアンプもあります。
オフセットは、初期に回路定数の違いで発生します。
高度な計測では温度変化による出力変動に注意が必要です。これは、ドリフトと呼ばれ、1度(C)あたりのμボルト単位の入力換算電圧で指定されます。
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増幅器の利得
増幅器の利得(ゲイン)は、デシベルと呼ぶ対数で表現でする場合があります。電圧利得を Av とすると、
ゲイン = 20* log 10 Av
で定義します。
デシベルで表示すると、多段の増幅や減衰がある場合、加減算で全体のゲインが計算できます。
倍数 |
1/10 |
1 |
10 |
30 |
100 |
300 |
1000 |
ゲイン |
-20 |
0 |
20 |
30 |
40 |
50 |
60 |
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雑音の強さを示すS/N比
信号に含まれる雑音の量を電圧比のデシベルで表現し、S/N比(Signal to Noise ratio)呼びます。小さいほど、含まれる雑音は小さくなります。半導体にも電子の揺らぎに基づく雑音があります。
また、一般に高抵抗は大きな雑音を発生します。
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その他の応用回路
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加算回路
複数の信号の電圧を加算します。
vo = - (R4/R1)e1 - (R4/R2)e2 -(R4/R3)e3
となります。
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差動アンプ(計装アンプ)
計装アンプは、差動型の高入力抵抗のアンプです。Ra1=Ra2,Rc1=Rc2,Rd1=Rd2,とします。
opアンプ1,2の出力を Vout1,Vout2、Ra1,Rb を流れる電流をI1とすると、
Vout1-Vin1 = Ra1*I1
Vin1-Vin2 = Rb*I1
Vin2-Vout2 = Ra2*I1
となります。ここで、opアンプの+と-端子の電圧は等しいこと、入力端子の流れる電流は0と仮定しています。
これより、I1を消去すると、
Vout1 = ((Ra1+RB)/Rb)Vin1 - (Ra1/Rb)Vin2
Vout2 = ((Ra2+RB)/Rb)Vin2 - (Ra2/Rb)Vin1
となります。
次にopアンプU3に関して考えます。Rc1,Rd1を流れる電流は等しく、I2とします。また、Rc2,Rd2を流れる電流は等しくI3とします。U3の
I2 = (Vout1-Vc) / Rc1 = (Vc-Vout) / Rd1
I3 = (Vout2-Vd) / Rc2 = Vd / Rd2
ここで、Vc=Vd の関係を代入すると、
Vout = (Rd1/Rc1)(Vout2 -Vout1)
となります。したがって、
Vout = -(Rd1/Rc1)(1 + 2Ra1/Rb1)(Vin1-Vin2)
となります。
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整流回路
単にダイオードで整流すると、0.6Vあたりまでの順方向電圧が切られてしまいます。オペアンプの帰還抵抗に組み込むと、定電圧分がオペアンプの大きな増幅度で無視出来るようになります。
ダイオードの順方向電圧を Vf として、
Vo=-AVV--Vf
V-=(ViR2+VoR1)/(R1+R2)
ですから、
Vo=-(AvViR2+Vf(R1+R2))/(R1+R2+AVR1)
となります。Av が充分大きければ、
Vo=-R2/R1
となります。この回路では、入力が正(出力が負)のときは、
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積分・微分回路
コンデンサの充電による積分回路は、充電が進むと非線形になります。オペアンプを入れるとこの問題をある程度解消できます。
この回路のみでは、出力は +または-に飽和してしまいます。どこかで、リセットする回路が必要です。
R2とC1を入れ替えると、微分回路になります。
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ピーク値検出回路
出力を-入力に接続した回路は、利得1のインピーダンス(入出力抵抗)変換回路となります。これを利用して、最大値までコンデンサを充電します。実際には、コンデンサを放電するリセット回路が必要です。
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定電流回路
負荷抵抗RLに無関係に入力電圧で定まる電流をRLに流す回路を定電流回路とか、 電圧-電流 変換回路といいます。。下図で、RLに流れる電流 IL
は
IL = (Rf / Rs * R1) * vin
となります。まず、オペアンプの -端子の電圧はオペアンプの出力を vo とすると
v- = (v0 /(R1 + Rf)) * R1
となります。一方、Rs の右側の端子電圧を v1 とすると
v+ = ( Rf /(R2 + Rf ))(vin - v1) + v1
となります。v+ = v- ですから、
Rf * vi = R2 * (vo - v1)
となります。Rs を流れる電流を IL とすると、vo - v1 = Rs * IL ですから、
IL = ( Rf /(Rs * R1)) * vi
となります。RsにくらべてRfが十分大きいとき、IL はRL を流れる電流に等しくなります。